350/365 虹色の光

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夫の父…義理の父が亡くなって15年ぐらいになる。

その朝、ものすごい夢を見て飛び起きた。

ベッドの隣で眠る5歳の長女、

長女を挟んで向こう側にいる夫はまだ眠りこんでいて

カーテンのない寝室には昇る朝日の光が立ち込めて、

現実に戻るのに少し時間がかかった。

 

前日に雄物川が流れる、とある山に行ったのだ。

親友を亡くしたばかりで、立ち直れない私は

彼女が亡くなる少し前にすがっていた…

命を助ける水がある場所を訪ねた。

どこでもよかった。彼女の面影を探していた。

でもその場所に入った途端、ああ違う。と思った。

これは本物じゃない。

何とも言えない気持ちになって

すぐさまその場を去った。

そして車を走らせた。

 

車を路肩にとめて、山の斜面を登った。

かなりの高さまで登って蛇行する雄物川を眺めた。

ほんとうに蛇のように川はうねり、流れは生きていた。

斜面に体育すわりをして何時間も川を見ていた。

鹿嶋さんの舟が岸辺に流れ着き朽ちていた。

見えないけれど水の中にはたくさんの生き物がいて、

枯れた葉は養分になり、土は水をろ過し…

巡り巡る様々なことを思った。

みんな生かされてる。

命はリレーしている。

だけど、彼女はいない。

ただただそう思った。

いつまでも寂しがるなんておかしいよ、と

人からあきれられていた。

違う。

寂しかったからじゃなくて、

飲み込むことができずにグルグル回っていたのだ。

死ぬということを。

昨日まで確かにここにいた人が居なくなってしまうことを。

 

その翌日だった。

夢の中、自分は空を飛び、蛇行する川を俯瞰して見ていた。

突然、虹色の光に包まれた。

そのひかりの中にものすごい勢いで吸い込まれていく。

感じたこともない感覚が襲う。

セックスでも味わったことのないような

ものすごい快感だった。

あまりの気持ちよさに息ができなくなって目が覚めた。

そのあと、しばらくして電話が鳴った。

夫の実家からだった。

「今朝突然、眠ったまま、お父さんが死んでしまった…」

 

弔問客のべ1000人。

ただただ人を愛していた人だった。

 

最後に会ったのは義父が死ぬ一か月前で

会った途端、何故かわからないが、

義父が死んでしまうと悟った。

義父はわたしに自分が好きな納豆の食べ方を

丁寧に教えてくれた。

伊藤家直伝の食べ方だから忘れないでね、と言った。

納豆の膨らみ具合…卵を入れるタイミング、

あおさを入れるタイミング、

笑っていた。でもとても怖かった。泣きたかった。

そのあと、夫の三番目の兄夫婦や夫に

「お父さんが死んじゃう」と意を決して話した。

夫は信じてくれなかった。

三男夫妻は外国にいたので気に留めてくれ、

お父さんと連絡をとってくれた。

そしてそれが最後の会話になったよ、ありがとう…と、

お葬式のあとで、三番目のお兄ちゃんがそっと教えてくれた。

 

 

 

亡くなった友人に言える言葉があった…

そんな気がした。

抗がん剤治療を受けていることを自覚しながら

家族がガンではないと言い張る言葉にすがる彼女の前では

たいした病気じゃないふりを、お互いにする他なかった。

病室で笑いあって、ほんとうのことを話さないで

笑ったままドアを閉める。またねと言って。

その直後から止めていた涙があふれる。

本当は本当は、

心細そうにしている小さな少女が

暗闇から手を伸ばしているのが見えるのに。

 

いよいよ病状は悪化して

もう病院での治療も終わり、自宅療養になったころ

仕事場に彼女から連絡が入った。

なんでもないことを少し話したあと、

彼女が何か言いかけた。

そしてやめた。

…なに?どうした?

いいかける彼女は、言葉がみつからないようで

そしてわたしも頭が真っ白になった。

ううん、いい、じゃあ…

そう言って、彼女は電話を切った。

 

そのあとは亡くなる二日前に5分だけ会って

次は亡骸の額をなでていた。

 

まるで別次元にいるみたいに

かみ合わなかった電話のあと、

そんなに楽しく生きているわけではないのに

自分がいる生のベクトルと

死に向かうベクトルの違いを思い知らされた気がして

夜眠る前に

死が身に迫っている状態を体感しようと思った。

どうあがいても余命宣告され、

死が身に迫る感覚にはなれなかった。

所詮、、、人は…

本当に一人で死んでいくしかないのか…と

分かち合ってあげることもできないのか…と

布団の中でむせび泣いた。

そのまま眠りかけた時だった。

布団の四隅から暗闇が押し寄せてきた。

自分が飲み込まれていく。息ができない。

恐怖で心拍数が上がり、

布団のへりを指で握りしめていた。

寝汗でぐっしょり濡れていた。

こんなものを、と思った。

こんなものを抱えるのが日常だなんて。

 

そして彼女は亡くなって、

お通夜、火葬、お葬式での弔辞の準備、

遠方からくる友人やその他の友達へのやり取り

仕事はちょうど締め切りで入稿日、

丸二日寝ないで読んだ弔辞。

お葬式が終わったあと、うちで友達たちと飲んでいて

別の部屋に物を取りに行ったとき、

そのまま、ソファーでふっと眠ってしまった。

夢のなかでわたしは暗闇の中を歩いていた。

石畳のような感覚、周囲に飛び交うたくさんの声、

人がすれ違っていく気配。

チリーンチリーンと鐘の音があちこちから聞こえて、

みんながどこかに向かって歩いている。

わたしも何も見えないけど歩いている。

すると急に明るくなってモノクロの景色が広がり、

彼女が目の前の岩場に座っていた。

そして何か言った。

聞き取れないままテレビが消えるように

真っ暗になって、目が覚めた。

 

 

そんなことがあって、

一年ほどしたころの義父の死だった。

その時に見た虹色の光、

味わった感覚に救われた思いがした。

あれがそうなら、あれがそうならいい…。

年月がたつほどに、その思いは強くなる。

 

 

彼女に伝えたい言葉は

なんだったのだろう。

 

行かないで

わたしが、行かせない

必ずまもるから

 

想いと想いがつながれば、病から

引き戻せると思ったのはなんでだろう。

今もそう確信しているけれど。

 

 

でも何も言えなかったし、何もできなかった。

そんなもんだろう。

そんなことはわかっている。

でもそれで話は終わりじゃなかった。

 あの世とこの世はつながっているらしい。

 

その後、ごく一部の人としか関わることをやめ

失うことを恐れて

引きこもっても

人と出会う方向に向かわされ、出会った人を通して

与えられた命を生かすことを教えられた。

 

もういいんだよ、もういいからさあ、と夢の中で、

きれいな服を着た彼女が、けらけら笑っていた。

 

彼女の夢を見たのはそれが最後。

それから

二人分背負っていたのをやめた。

 

そこから、12年間止まっていた時間が動き出した。

 

 

この世の物質はすべて、

人間さえも素粒子でできてるんだから

わたしはスピリチュアルも宗教も信じないけど

息子が反抗期で口をきかないときも

わたしの愛の素粒子を息子に送ったのよ

と、近所のイシカワ先輩が言ったとき、

ああ、そうかと思った。

 

人間の本質は光

 

宗教もスピもわたしも苦手だけど

そうかもしれないと思った。

 

 

とらわれず 自由で

すべてをつつみこんで

一生懸命かがやく光になって

 

いのちのふるさとに還る。

 

 

現実は相変わらずのままの、ちっこい私と

見えない世界を感じ生きている私、

わたしが二人、

手に手をとりあって生きている。

ほんの少しだけサイキックになった。

人が何故、こころや体を病むのか、

目の前の人が何を必要としているのか

何を恐れているのか、

本当のことが、わかるようになった。

それで嫌われることも増えたけど

好かれることも増えた。

 

でもそんなことはどうでもよくて、

一番よくわかったのは自分のこと。

それ以上でも以下でもない

わたしはわたしだということ。

そして、わたしはみんな、なのだ。

 

 

いま、

最後は何も持っていけないのに

あくせく働いているけれど

本当は毎日毎日、奇跡を感じている。

お腹いっぱいになるぐらい。

何にもいらないけど、精一杯やるしかない。

わたしにできることを。

 

 

 

 

もうすぐ2018も終わるなあ。

 

たくさんのこと、ありがとう。

体を大事に…

残りの半月も、一日一日大事に…

恐れないでありのままで。