献本

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やきいものおじさんに会った。

久しぶりだったけど「おお、えくぼちゃん」と

おじさんはにやりとした。

おじさんはなぜかわたしに会うと

タレコミのようなことをする。

もちろん、聞いてもどうすることもできないが。

 

いい話と悪い話、今日はどっちも教えてやるよ。

そう言って、誰も知らないけれど

ものすごい人がこの辺に住んでいる話と

イージスに少しかかわりのある裏話を教えてくれた。

新聞社に持ち込んだが扱ってくれないと

おじさんは憤っていた。

売れ残りの冷やし芋を何個か手渡してくれて

おじさんは「じゃあな、えくぼちゃん」と去っていった。

 

話を聞いておじさんが心配になった。

その足で駅まで長女を送る。

道すがら、落ち着かない気分で

長女とスタバに入って、ふっと隣席の

なんとなく美しいファミリ―を見やると

イージスアショアの件で立ち上がった女性議員のご家族だった。

お子さんがふざけたのでお父さんがたしなめながら

それを見ていた私に笑いかけた。

わたしも微笑んだ。

 

長女は長い帰省が終わって東京へ帰らねばならず

機嫌がよろしくなかった。

今起きたことを話そうにも話せないまま帰った。

 

翌日の今日、イージスの献本をしたいと

女性記者さんがうちに来た。

何の気なしに話していたら、

やきいもやさんが話を持ち込んだ記者とは彼女だった。

そして受け取った献本のなかには

女性議員さんと一緒にわたしも女性のモチーフとして描かれている。

偶然の符号。

これ、わたしが村上春樹なら本一冊かけるな…と思った。

不思議な気持ちがした。

 

 

女性記者さんとはこの1年半、いろんな話をした。

初めての取材を断ったとき、彼女は自分の想いを

一生懸命伝えてくれた。

自分も仕事ではないけれど

人にマイクやカメラをむけることがあり

相手が話してくれることが

どれだけありがたいか身に染みている。

また彼女が、自分のために

私を利用しようとしてるのでは

ないのはよくよく伝わってきた。

 

その次に断ったとき、わたしはちょうど

次女のいじめ問題でそれどころではなくて

私がまた話したら、

周りからどう思われるかと躊躇してる

胸の内を明かした。

 

すると彼女は自分が

子供時代に体験したことを話してくれた。

それも同じ立場からの話ではなく、

ご家族のことだったけれど、

言いたくないことを正直に伝えてくれた。

たくさん話した。記事とはまったく関係ないことを。

そして結局、取材もなかった。

 

状況も変わって、いじめ問題も解決し

自分も主婦の範疇を大きく超えた問題に対しての

自分なりのアンサーが出た頃。また連絡があった。

そのとき思っていたのは

信じられないけど頑張る、そんなスタンスじゃ

何も叶わない

絶対にそうなる、そうする、そう信じる

そうでないと現実なんてやってこない

 

そういうものなんじゃないだろうかと

思い始めた頃だった。

すると

計測の間違いや、女性議員の当選、

いろんな風向きが変わる事件が起こり

併せて、あなたがどう思っているか

どうしてもお聞きしたいと彼女から依頼があった。

どうしても聞きたいんです。

その言葉を受けて会うことにした。

 

最初から答えありきの誘導インタビューではなく

こころで話を聞き取ろうとしてくれて嬉しかった。

そういう人が現場でちゃんと頑張ってくれてることが

本当に嬉しいと思った。

きっと利用されることも、

思うようにいかないことも沢山あるのだろうけど

いつまでもそのままで頑張ってほしいって心から思う、

そんな風に、彼女と関わって感じたことを

今日は伝えた。

 

すると彼女にとっても

同じ人とずっとアポをとり、

気持ちの変化を追うというのは

とても印象深いことだった、しかも

わが社が頑張ってることが

伊藤さんの心にも変化を起こし

自分がしている仕事が誰かの心に勇気の灯をともすなんて

記者をしていて初めて感じたことだから…と。

一生忘れられない経験になりました、

と彼女は言った。

 

暮れから台湾に勉強にいっていた彼女から

お土産をうけとった。

金魚のお茶。

明日、楽しみに飲もうと思う。

 

献本には、デスクと思われる方からの

御礼の言葉が長々と、したためてあった。

 

本の中では49歳のわたしが、

まっすぐいられずに右往左往している。

女性議員とは偉い差だ。

その姿を今はちゃんと受け止めて

この先…

 

いつか、あなたにこの問題とは違うことで

きちんと取材してもらえるように

わたし頑張りますね。

だから、あなたも記者人生を頑張って。

また会いましょう。

 

 

そう話して別れた。

 

 

やきいもは甘くて甘くてとても美味しかった。

純粋すぎて極端に振れている

やきいもやさんの心が鎮まりますように。

 

 

イージスが来るなら、ここにいられるかわからない。

そう思ってスタジオのことに本腰出せなかった私が

最近焦りだしてきたのはホッとしたからだと思う。

この町で小さな小さな、

人と人との時間にまつわるお仕事をするスタジオを

細々とやっていくのだ。

へんてこな事務所。

中にいる人もへんてこな。

 

 

毎年、やきいも買うし。

えくぼ見せてあげるし。

だから、いつものおじさんに戻ってほしいと願う。